点灯と明滅

交歓日記|Twitter @taka_1_4

ヤシャブシの沐浴(こうせき)

 海水浴に来てるみたいに、日差しの熱で濡れた髪を温めていた。朝陽を浴びて髪の毛がところどころ赤銅色に光る。ちぎった電線の中身の色。もうずっと染めてないのに赤茶けていて、枯れ落ちたヤシャブシを拾い集めたようなぼわぼわの髪の毛。わたしは自分の髪を好きだったことがない。髪が細い女の子たちの重みを持たずに流れる液体のようなうつくしい髪の毛、そっと指を差し込んだら指の背に当たる先から断ち消えてしまいそうな、生まれつきの繊細さにずっと憧れている。

 

 日光浴しながら、ポータブルオーディオで音楽を流し、『掃除婦のための手引き書』を読んでいると、庭に闖入してきた一匹の蚊にまとわりつかれてしまって、意識が文字列と羽音のあいだを行ったりきたりする。集中が削がれると日焼けをし過ぎている気がしてきて、虫と紫外線から身を守るには襟の詰まった長袖のシャツと長ズボン、丈の長い靴下が最適解だけど、もっと涼しくて簡単に着られて簡単に洗えるような服じゃなきゃ着たくない、などとあれこれ考え、メルカリで旅館向けの業務用浴衣を買う。これなら着付けの手間がないし、洗濯機で洗っていいはずだ。何でも買える、物に溢れたあかるいブラックマーケット。

 

 外気浴だけではいつまでも生乾きなので、室内に戻ってちゃんと髪を乾かすことにした。曲が途中だったからオーディオをかけたままドライヤーをかける。轟音で音が聞きとれなくなる。頭の中で続きを演奏して、終わったところでオーディオの電源を落とした。本当はあと五秒あった。