点灯と明滅

交歓日記|Twitter @taka_1_4

いちきさん(こうせき)

 今回は羽田から鹿児島へということでございまして、関東のお客様がですね、いっぱいお越しくださいましたということで。いかがでしたかね、機内では快適にお過ごし頂けましたでしょうかね。関東のほうはあんまりお天気がすぐれないとお伺いしたんですけれども、雨は、いかがでしたか。ちょっと朝はまだ雨が降ってましたかね。ああー、降ってましたか。大丈夫でしたか、よかったです。今日鹿児島上空もですね、もやもやっとした感じで、なんか佇んでいるんですよね。ついさっきドライバーさんと、あやしいね、なんて話をしとったんですけれども。今の鹿児島空港は、霧島町、溝辺町、標高が70メートルもある高い位置にあるんです。高台にある空港としては、全国で四番目でした。はい。こう、着陸をしたときに、なんか山にこう、近いなあと思った方はいらっしゃいますかあ。ねえ、なんか当たりそうだと思いますよね。なので、パイロットさんからしたらですね、九州で一番着陸をしづらい空港。これが鹿児島空港だったりするんです、はい。今日はそういった、標高がですね、ぐっと高い位置から、今、くだって、まいりました。それでは、わたくしがまたお話をですね、しすぎてしまいましたけれども、ちょっと、右手なんか、こう、見えましたかあ。どうでしょうねえ、百円ショップがありますけど、はい。進んでいくといろんな景色ございますので、気になるところがあったら言ってくださいね。それでは、この時間をお借りしまして、ご挨拶させて頂きたいと思います。みなさま、この度は、わたくしども、南国交通観光をご利用頂きまして、まことに、ありがとうございます。本日からですね、三日間というお時間でございます、お供させていただきます、ドライバーが川野道彦、ガイドはわたくし、イチキと申します。えー、三日間、一生懸命ですね、ガイドさせて頂きたいと思いますので、どうかよろしくお願いいたします。ありがとございますうー、盛大な拍手、ありがとございました、38名とは思えぬ拍手をありがとうございます。拍手が来なかったらどうしようって心配しちゃったんですけど、ありがとうございましたぁ。鹿児島はですね、イチキさんという方がいっぱいいらっしゃいます、はい。あの、地名にも、今回通っていくところにもイチキという町があったりですね、偉人にもイチキという方がいらっしゃったりするんですけれども、わたくしのイチキはちょっと変わったイチキなんです、はい。市場の市という字にですね、いち・に・さんという字の三という字を書いて、全部突き通してください。昔の来るっていう漢字なんですけれども。

 

 

 去年のゴールデンウィーク、友だちとふたり、『指宿温泉と霧島温泉 美しきかごしま10景物語3日間』というクラブツーリズムのツアーに参加していた。ろくに下調べもせず申し込んだところ、ふたを開けてみれば参加客のほとんどは年配のご夫婦で、あとは会社の慰安旅行とおぼしきおじさん団体が一組、わたしたちはかなり浮いていた。ここで働きはじめてから初めてですよぉ、若いお客様は。うれしいですけど、どうしてこのツアーに?と、ちょうど霧島神宮を見てまわっていたときだっただろうか、にこにことガイドのいちきさんに話しかけられ、「わたしたち二人とも運転ができないので、九州を旅行するのに足がないと不便なので、バスツアーに」とつっかえつっかえ答えると、後に友だちから「なぜバスなのかって理由じゃなくて、なぜわざわざこんな渋いプラン選んだのかって方を知りたかったんじゃ」とそっと言われた。こういうとき絶対にまっとうにふるまえないのなんなんだろう。わたしの周りの人たちはそんなわたしにいつもやさしい。

 ツアーは移動に次ぐ移動で旅行した気がしなかったけれど、三日間、常に朗らかで、お客様ひとりひとりに明るくやさしく接し、こなれた口調で鹿児島の歴史から暮らしまで、さまざまのことを案内し続けてくれたいちきさんが、鹿児島空港へと向かうバス車内での最後の挨拶の中で、「老けて見られがちですけど、実はわたし21歳なんです」と話し、「この度は南国交通観光をご利用頂きまして、まことにありがとうございました」と深く一礼した姿、搭乗口へ向かうわたしたちを、ドライバーの川野さんと並んでいつまでも見送ってくれた、ぽつんとした立ち姿を、印象深い夢の一場面のように、今もあざやかに覚えている。

 さつまあげ、花林糖まんじゅう、梅月堂のラムドラ、然よかせっけん。ひとしきり土産物を買い終え、出発ロビーのソファーに腰を下ろす。黒々とした山々を背景に夕空へ飛び立っていく飛行機を見るともなく見ながらぼうっとしていると、「びっくりしたね。実は同い年くらいなのかな、とは思ってたけど」と友だちが言った。「感動したね」とか返しつつ、そういえば傍で話したとき、オレンジのアイシャドウのぱっきりした発色が目に飛び込んできて、いちきさん、K-POPとか好きなんかなって思ったんだよな、なんてことを思い出した。東京行きの便を待ちながら、そんなことを不意に。