点灯と明滅

交歓日記|Twitter @taka_1_4

2020-05-01から1ヶ月間の記事一覧

ヤシャブシの沐浴(こうせき)

海水浴に来てるみたいに、日差しの熱で濡れた髪を温めていた。朝陽を浴びて髪の毛がところどころ赤銅色に光る。ちぎった電線の中身の色。もうずっと染めてないのに赤茶けていて、枯れ落ちたヤシャブシを拾い集めたようなぼわぼわの髪の毛。わたしは自分の髪…

よそ行きの部屋(もっちー)

引き出しの中にはいくつもの箱があって、その中の一つ、マールブランシュ京都北山のお濃茶ラングドシャの化粧箱、白い蓋を開けると、私が今までもらった大事な手紙達が入っている。底には、毎年誕生日に届いていた京橋の消印付きの絵葉書(なぜか八歳の頃の…

対になる電飾(もっちー)

道ができる。歩道ができる。道路ができる。 去年の夏頃、長年空き地だった実家の隣に道路建設工事が始まった。 緑色のフェンスで覆われた100mだか200mくらい伸びた空き地には、子どもの頃にフェンスをよじ登って野球やサッカー、鬼ごっこをしたり、廃材とス…

水溶性の季節(こうせき)

宵の口、辺りはほのぼのと澄んで、街の影は薄墨を重ねたように暗く、七月、ゆるりゆるりと漂う風のなかに、湯気のにおい、石鹸のにおい、人のにおいが仄かに混じっていた。夜半までの時間がひろびろといつまでも伸びていく季節の、水に溶けていくような夕べ…

猿ヶ京(こうせき)

夜のバスに乗って、群馬の山の奥へ奥へと向かっていた。ビロードの座席は汚れとすり切れでざらついている。乗客はすくなく、薄白い車内灯の下、皆が押し黙っている。わたしはその日の昼間、地面に腰を下ろし梅林を見上げていたときのことを思いだした。背が…

いちきさん(こうせき)

今回は羽田から鹿児島へということでございまして、関東のお客様がですね、いっぱいお越しくださいましたということで。いかがでしたかね、機内では快適にお過ごし頂けましたでしょうかね。関東のほうはあんまりお天気がすぐれないとお伺いしたんですけれど…

夏影(こうせき)

消灯された部屋みたいな天気でちっともたのしくならないので、正午過ぎ、庭に出てみたけれど、すぐ室内に戻る。風が吹くとき、奪いとられる体温より、運ばれてくる草のいきれ、人のいきれ、猫や犬や虫のざわつく気配に意識を向けていられるような、暑い夏が…

窓の外は(どら)

雷は嫌いじゃない。ここ数年は毎日朝風呂で、シャワーだけでさっさと済ませて出るのが常だったのが、この1ヶ月くらいは夜に入り湯船にも浸かり、少しのんびりするようになった。湯船に浸かって正面には大きな窓があって、夜の暗いその窓は、まるで外に何もな…

パパイヤの香りがする。(もっちー)

先週あたりの話。 私は猛烈に機嫌が悪かった。少しのことにイライラして、些細な音にも敏感になり、母親の言動の一つ一つが気に障った。幸いこの状態が何なのかが分かっていたので、ああこれはあれだな、と自分で自分を整理することはできる。私の場合、全て…

旅をする窓越しの眼(こうせき)

目薬と目があっている。この、ロート・アルガードは、てつろうくんと東北旅行をしているときに、アパホテルの近くのどらっぐぱぱすで買った。最近、てつろうくんとはビデオ通話をしながら、YouTubeで「世界の車窓から」の動画を、せーので再生ボタンを押して…

New Closeness(こうせき)

ナイロン製の折り畳み椅子に座って生垣に向かって両脚を伸ばすと、向こう脛がしろく、薄っすら発光して見えた。朝日は重みがなくて漂うように世界を照らすから、早朝はなにもかもが特別な色の見え方をする。一秒ごとに陽が降るように重くなる。光に触られて…